― 攻撃 ―


タ:静かになったようだ。攻撃は一休みか。

リ:一休み…奴らに疲れるなんてことが、あるわけねぇよ。
  やり出したら、根こそぎなんだ。

ミ:どうやら、あいつらには“物事が終わる”、そんな感覚は、ないようですね。

リ:「All or Nothing」、ゼロ…ゼロか全てかなんだよ。

ミ:これでは八方塞です。まるで、カタツムリの心境ですよ。

タ:角も出せないカタツムリか。
  カタツムリと言えば、小さい頃こんな話を聞いたことがある。
  カタツムリは、他のどんな生き物よりも、恵まれてるそうだ。

ミ:どうしてです?

タ:生まれた時から、自分の家を持っているし、畑にいれば、食べるものも困らない。
  まぁ、そんな理由だから。

リ:こんな時に、そんな…子供だましを!

タ:そのカタツムリはこういうんだ。
  「僕らの住んでいる所よりいい場所なんて、あるはずがないんだ」とね。
  「他のカタツムリは畑の外に出ていって食べられてしまったけど、
   自分たちは、ここに残ったお陰で、幸せに暮らすことができたんだ」ってね。

リ:じゃあ俺たちは、そのカタツムリと一緒ってわけか?

ミ:冗談じゃないですよ?
  こんなところに、いつまでも籠もっていられませんよ。

タ:いや、そうじゃない。
  もしずっと前に、人間がそのカタツムリのような考え方をしていたら、こんな状態には、ならなかったかもしれない。
  そう思った。

モ:どういうこと?

タ:さっきの話でもわかるように、モランの種族は、目に見えない何かを恐れるという心を持っていた。
  しかし我々はどうだ?そんな心、どこかに忘れてしまったような気がしないか?
  人間の欲望は、大半が浅薄で、気まぐれで、無意味なもので…。
  人々は過去にも様々な理想を語ったけど、その根源となる衝動が、
  いかに空虚で、価値のないものであったかは、今さら言うまでもない。
  定まった目的も、安定した判断基準もない無意味な義務感が、
  落ち着きのない混沌とした非人間的な世界を創りだしてしまったんじゃないだろうか?

リ:そ、それじゃあ、この争いは人間の所為だっていうのか?

タ:多分な。
  人間が少しでもモランの種族のような気持ちを持っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。

ミ:歴史には“もし”という仮定は、ありえませんよ?

タ:でも、もし君の国の英雄ナポレオンがいなかったら、歴史はどう変わっていたと思う?

ミ:何も変わっていませんよ。
  ナポレオンに代わる別の人物が現れ、同じようなことをしただけでしょう。
  歴史は、一人の人間の力で変わるものではありません。
  社会が作り出した欲望にしたがって、ただ、前に進むだけなのです。

リ:ってことは、この状況も、避けようがなかったってことかい?

ミ:そうですね。どうしようもなかったんです。

モ:悲観主義者だね!
  俺は酒が半分残ってれば、「しめた!まだ半分ある」まぁ、そう思うタイプだけど、
  あんたは、「クソっ頒布ンしかない」そう思うタイプだろ?
  それは希望のない考え方ってね。

ミ:文化の違いですよ。それに私はお酒は飲みません。

リ:おい!また奴らが…


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