〜Ares
― 攻撃 ―
リ:タケル、一体何が起きてんだ?
タ:わからん。何かが始まったようだ。
モ:腐り果てた邪悪な魂が地の底から這い上がって来たんだ。
ま、俺が小さい頃長老から聞いた話と同じだ。
ミ:モラン、この時代にそんなこと…あるわけないでしょ?
モ:じゃあミッシェル、奴らは何なんだ?
ミ:それは…わかりません。
モ:目に見えるものだけが世界の全てではない。
物理的に存在しているものだけを崇拝し、闇の中に生きるものを具にもつかない幻想だと考えるのは愚かなことだよ。
見えないものこそが本当の真実を映し出す鏡なんだ。
心はケダモノ以下だが、知能は人間以上の不可思議なものがこの世には存在しているってね。
タ:落ち着けよ、モラン。
神秘な現象を、この世界から排除してしまった責任は我々にもある。
ここは冷静に考えよう。今、目の前に起こっていることは、現実なんだ。
リ:化けモンじゃなきゃ、悪意を持った未知の何かが、宇宙の果てから降ってきたってわけか?
ミ:リッキーも…現実離れしてますね。
タ:いや、一概にそうとも言えない。
我々は物事を知っているようで、実は何もわかっていないんだ。
せいぜい分かっているのは、自分の周りの世界と宇宙についてだけだと、そう言ってもいい。
おまけに、周りにある物体についての概念は恐ろしく狭く、その究極の性質については、まったく理解していないんだから。
リ:じゃあタケル、俺の言ったことも、ありえん話じゃないと?
タ:そんな簡単に決め付けられる問題じゃあない。
僕の言って言るのは、人間は弱々しい五感で、果てしなく複雑な宇宙を理解したつもりになっているだけだと…いうことさ。
もっと強く、異なった範囲の感覚を持っている他の生命は、我々が見ているものを全く違った目で、そう捉えているはずなんだ。
しかしそれを感知する能力が人間に備わっているとは、とても思えない。
リ:それじゃあ、宇宙からの招かれざる客でもないのか。
モ:空からじゃなきゃ、地底に違いないね。
俺の種族の言い伝えは決して非現実的な話じゃない。
この地底のどこかに想像を絶する巨大な力と姿を持つ何かが存在しているってわけ。
リ:いい加減にしろよ!
タ:地球は想像を超えた壮大な周期で、循環を繰り返している。
だから、今の人間に見えているのはごくわずかな出来事だけなんだ。
そう考えると、この世のどこかに、人類の概念とは全く隔絶した、前の時代の生き残りが潜伏している可能性も、ないわけじゃない。
モ:我々の祖先はその未知の何者かと会話を交わしていたそうだ。
そして、地球と七つの星が正しい位置に立ち戻る日、その会話の内容を子孫達に言い伝えることになっているんだよ。
これが長い間引き継がれてきた、種族の秘密のしきたりってね。
リ:じゃあ、その言い伝えで、今回のことを予言してたってのか?
モ:そう。だから俺はさっきから、何度も言ってるだろ。
リ:そんなバカな!!
タ:太古の昔、未知の者に対峙した時の人類の恐怖や緊張感は、創造を遥かに絶するものだったんだと思う。
その畏敬の念が、目に見えない何者かを創造し、さらに長い歴史の中で、その神秘的な生命力を増幅させてきたんだろう。
それが、モランの種族の宗教であり、哲学なんだ。
ミ:もっと現実的に考えましょう。
リッキーの言うように空からでもなければ、モランが言うように地底からでもない。
これだけは、間違いないんですよね、タケル?
タ:おそらくな。
だが我々は、無限に広がる暗黒の孤島に、いるようなものだ。
何があっても、おかしくはない。
ミ:それはそうですが。
タ:今言えるのは、何かとんでもないことが起きているということと、我々四人が、無事に生き延びたと…いうことだけだな。
リ:無事ったって、四人だけで、何ができるってんだ?
タ:とにかく今は、ここで待機しよう。
モ:この地下が我々の墓場になるかもしれないね。
リ:何千年後かに、掘り起こされて、博物館の展示物になってるってのだけは、勘弁してもらいたいな。
ミ:縁起でもない…
タ:そうならないことを、祈るだけだな。
でも、そう簡単に、奴らの思い通りになってたまるか!
だが、今は…
リ:待つだけか?
タ:あぁ。
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