― 攻撃 ―
リ:しつこい奴らだ!
タ:まだ、外には出られんな。
リ:なぁ、タケル。こんな非常時だからかもしれないけど、俺は最近よく夢を見るんだ。
それも小さい頃のことをな。
タ:家は、牧場だったな。
リ:あぁ。まぁ広いだけが取り得のな。
俺はまぁあまりできのいいほうじゃなかったんで、いつも一人で牛の世話しながら夜の空を眺めてたんだ。
ミ:私も毎日、劇場に通っていたころのこと、思い出します。
映画に疲れると、アイスクリームを買って、川のほとりのベンチで、よく一休みしたものです。
しばらくすると、遠くの広場で演奏している音楽が、風に流れて聞こえてくるんです。
今でも忘れません。街路樹の緑と、川の水の匂い、そしてあの音楽…。
モ:俺も思い出すね。家族の誕生日にはギター弾いて、朝までパーティ。
親戚や友達が集まって、飲んで詩って踊るんだよね。
みんな楽しい仲間。まぁでも、もう誰もいないけどね。
リ:何が原因で、こんなことになっちまったんだろう?
タ:原因か…
ミ:タケルの言うように、この争いの原因が人間だとしたら、
それはとんでもない怪物を飼いならそうとした所為なのかも…しれませんね。
リ:怪物?
ミ:えぇ。怪物です。タケルには、わかるでしょ?
タ:あぁ。多分。
リ:その怪物ってのは、何だよ?
タ:時間と空間だよ。
リ:時間と空間?それは、どういうことだ?
タ:ずっと大昔は長い時間と、非常に長い時間との間に、意味の差はなかったんだ。
だから、時間や空間を区別する必要がなかった。
ただ、無限と言う意味あいしかなかったんだ。
リ:だから、一体なんだって言うんだよ?
タ:リッキー、宇宙の果てをイメージできるかい?
リ:なんだよ、突然。
タ:もう一つ、宇宙の一番最初、イメージできるかい?
リ:そんなこと…できるわけないだろう。
タ:宇宙は今から約50億年前に始まったんだ。
では、それ以前には何があったのか。 宇宙はどのようにしてできあがったのか。
その原因は何なのか、そして、宇宙の未来はどうなるのか。
人間はそんな宇宙の神秘をすべて解き明かそうとしたんだ。つまり、生命の祖先から、子孫に続く全ての系統と、
あらゆる生物の成長段階を一つの原型的かつ永遠の存在として解明しようとした。
そして同時に、計算不能とも思える時間と空間を超越した、宇宙のサイクルを算出し、
“時間”という概念そのものを変えようとし、コントロールしようとしたんだ。
ミ:その結果、悲劇が生まれたのです。
モ:それにしても、その謎を解くってこと、そんなに悪いことなのかよ?
タ:いや、それ自体は何でもない。
問題は、それが全ての生命のリズムを壊しそうになったことなんだ。
リ:リズムってどんな?
タ:生命には、どんなものでも自然から与えられたリズムがある。
その宇宙の驚異とも言うべき、多彩なリズムが、地球上の生物の正常な姿を維持させてるんだ。
それは、何十億年にもわたり、はっきりとした一つの意思を持って、刻まれてきた奇跡の鼓動だと言ってもいい。
その深遠なる響きは、宇宙空間の星から星へと呼応し、永劫の時間を経て、
果てしない闇の空間へと絶え間なく振動し続けているんだ。
モ:宇宙のすべてがそのリズムで動いているってことかよ。
タ:そうだ。信じられないほど遅いリズムを持っているものから、想像もできないほど速いリズムを持っているものまで、
わずかな狂いもなく、すべてのものが調和している。
その正確さは、一種悪魔的な性質をおびているようにも感じられる。
ミ:私もそう思います。途方もない広がりを持った宇宙のシステムの中で、草木一本から星に至るまで、
それぞれが適正なリズムで動いていると言うことに、底知れない恐ろしさを感じます。
タ:しかし、人間の想像力さえ及ぶことのないその領域に、無防備に足を踏み入れ、
生命の調和を崩壊させようとしたものがいたんだ。
ミ:時間と空間を管理するということの、本当の恐ろしさを、誰も理解していなかったのです。
タ:愚かなことだ。
モ:俺の耳には、黒い死者の歌う歓喜の声が聞こえるね。
リ:俺は小難しいことは苦手だから、よくわかんねぇけど、結局、こうなっちまったのって、俺たち人間の所為なのか?
タ:リッキー。それは、自分の目で確かめなくては、いけないことなんだ。
リ:俺は…俺は人類の最後なんて、見たくもないし、考えたくもない。
まして、モランの言う得体の知れない化けモノがいるなんて思ってもいない。
ただ、この地上で何かが起きているのは間違いないんだ。
その招待を自分の目で確かめないと、気はおさまらない。
タケル、俺は一足先に行くぜ。
奴らの招待を暴いて、もう一度自分の未来を取り返すんだ。
先に…先に行って待ってるぜ。
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