随筆 マイライン騒動記
安 芸 閑
島根日日新聞 平成16年6月3日付け掲載
我が家の固定電話は、〈市内〉〈県内市外〉〈県外〉〈国際電話〉がともに、マイラインはA社に指定してある。だから、電話料金の中で、これらの通話料はA社に支払うことになる。 四月半ば、A社から届いた請求書を見て驚いた。市内通話料金が異常に高いのだ。市内電話をかけることはあまりないので、いつもは一ヵ月が百円前後だ。五百円を超えることさえめったにない。それが二千円近くを請求されている。 おかしい。 A社に電話を入れた。どこにかけたのか、知りたかったのだ。だが、個人情報なので、電話口氏には通話記録を見ることが出来ないそうだ。送付することは出来る、と言うので依頼した。 心当たりがあるのは、インターネットの料金だ。我が家は電話回線を利用する方式なので、利用した時間だけの通信料がかかる。だが、B社と〈iアイプラン〉なるものを契約しているので、B社から請求されるはずだ。A社の電話料金にかかるはずはない。 念のため、インターネット接続会社に問い合わせてみた。残念ながら、電話口嬢は、そのあたりのことを詳しく知らなかった。よけいわからなくなるようなことを、答えてくれた。 B社に問い合わせてみた。我が家がマイラインをどの会社に指定しているか、把握していると言う。 「お宅の〈市内通話〉は、A社になっておりますので、料金はA社が請求いたします。」 「じゃ、<iアイプラン>は?」 「はい、加入されてますね。」 「えっ? 使えないのに請求してるんですか?」 「そういうことですね。」 こともなげに言った。 頭に血が上った。 ばか! だらず! 詐欺だろ! マイラインの〈市内〉をB社に指定しなければ使えないプランなのに、契約を受け付けていたのだ。馬鹿にしている。あんまりだ。 だが、相手は大会社。個人の私など太刀打ちできるものではない。泣き寝入りか。 それにしても困った。 じきにやってくるゴールデンウィークには、インターネットをしっかり使おうというのに、安い〈iアイプラン〉は無効なのだ。普通の通信料を払わなくてはならない。もとはと言えば、春休みにインターネットを長時間使ったから、このトラブルが発覚したのだ。 このプランを紹介したのは、インターネット接続会社の営業氏だ。 苦情として訴えた。 彼はあわてた。彼も知らなかったのだ。しかも、我が家以外にも紹介している。同じような家だって、何軒もあるだろう。B社内部でも知らない人がいたらしい。問い合わせても、たらい回しにされたり、逃げられたりしたようだ。 営業氏は、我が家へ謝りにやってきた。 そして、ゴールデンウィークまでにはマイラインを変更して〈iアイプラン〉が有効になるよう、あちこちに電話をかけて訊いてくれた。何度も同じことを言わされても、根気強く、とにかく早く変更できるルートを探してくれた。安い料金でインターネットを利用できるよう、尽力してくれたのだ。間に合うかどうかはわからない。でも、誠意が感じられて嬉しい。 〈iアイプラン〉は安い。契約してから今までの金額も大したものではない。しかもインターネット接続会社が返してくれた。だが、安いと思って、いい気になって使っていた。本当はA社の通信回線を利用していたのに。無駄使いした気分だ。授業料だと思うことにしよう。 続きがある。 優柔不断の私は、マイラインの指定会社をどう変更するか、非常に悩んだ。 〈市内〉はB社にするしかない。かけることのない〈国際電話〉はどうでもいい。〈県内市外〉と〈県外〉が問題だった。各々の会社で、組み合わせ方によって、個性ある割引サービスを展開している。 以前、マイラインの会社を指定する時は、何日も考えた。我が家の電話の使い方を考えると、どれが一番割安になるのだろう。マイライン変更にはお金がかかる。将来の使い方を見越して、しっかり考えて決めたい。 だが、変更を一日でも早くするためには、今日のうちに変更はがきを投函したい。早く決めて、書き込みたい。気はあせるばかり。どれにしよう。もう日が暮れる。 結局、〈市内〉を変更しただけ。 自転車に飛び乗り、郵便局の本局までひとっ走り。 家に帰りついたら、どっと疲れが襲ってきた。 倹約生活の大騒動だった。 |
◇作品を読んで
電話は、かつてNTT独占だった。そう古い話ではないが、通信の自由化で新電電が誕生し、続いて、希望の電話会社をあらかじめ選んで登録するマイライン制度がスタートした。そして、インターネットが身近なものとなり、それを利用した格安のIP電話の時代が来た。 作者は、通常の電話料とインターネット通信経費をいかに安くあげるかを考えに考えて契約をして、使いまくった。ところが、ある日、高額の請求書が来て驚く。その驚きと怒り、どう対処するかという思いがよく書けている。 最近は情報関連で、アナログ回線、ISDN、ADSL、FTTH、ナローとかブロードバンドなどなどと、分かりにくい言葉が氾濫している。こういう言葉を使った内容を誰にでも分かるように書くということは、なかなかに難しい。作者は、どう表現すれば理解してもらえるとかということに苦労した。読み手を常に意識して書くということは大事なことである。 |