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    リフォームアラカルト    
                       
       高木 さやか                                                                                                          平成21年11月12日付け島根日日新聞掲載

 固定資産税の上に都市計画税なる金額を、数年来一回も間違いなく、しかも容赦なく口座から直接に納めさせられている。それが資金になったのか、かなり前から始まっていた、我が家周辺の下水本管工事が、やっと今年の五月に完成した。
 工事は、町内で我先にと始まった。本管工事で道路の真ん中に大きい穴を掘り、夕方には、また埋め戻す。うるさい事この上もない。隣近所の騒音も、滅法気にさわる。
「えらいやかましくてすみません」
「いいえお互いさまですから」
“面従腹背”とはよく言ったもので、人間は心と腹の中身と一致しないものである。常識が感情に勝ると思い知った。
 続いて、我が家の工事では、待ちわびた水洗トイレがお目見えすることとなる。
 夏休み中に工事をするというのは、小学校二人、幼稚園一人の孫を見ながらということになり、大いに納得できない。フルタイムで働いている娘夫婦との相談で、九月一日からの着工ということにまとまった。
 家の中の工事は、最初トイレだけのつもりだったが、この際、台所のリフォーム、さらに物置部屋、私の部屋を畳からフローリングにと、どんどんエスカレートしていった。住み心地の結構な家になりそうだ。
 台所、物置、自室に所狭しと並べたてた品々を、全て移動した。一番良く使う台所はどんなに早く見積もっても完成までは二週間が必要だという。工事屋さんの言葉に従わざる得ない。
 玄関でカセットこんろを使いカレーを作ったり、洋間でおでんを炊いたりと、とてつもない労力を要した。疲れたと思い込むより適度なエクササイズだと、プラス思考に変更した。
 十月十六日に全てが終わり、完成引渡しとなった。嬉しさよりも、仏間、客間、廊下、車庫、縁側と、後先深く考えず陳列した品物を収めなければと思ったら、疲れがガーンと現れた。曇り顔の娘も、同様だったらしい。
 女二人の思いは同じ方向だった。三年間お目通りが皆無であった物は、容赦なく破棄することに決定した。産廃会社のコンテナを庭に置き、詰め込める限り頑張ろうと互いに意気投合。
 娘が気前良くポンポン投げ込む品々に、私の血圧は急上昇する。
「その抹茶茶碗は絶対ダメ」、「漆塗りのお菓子皿ももったいない」、「有田焼きの茶器も取っといて」、「備前焼の一輪挿しは結構な値段だわ」などと私。
「うるさーーい。言動不一致のサンプルか、はたまた性凝りもなく“ごみの巣城”を完成させる気?」
 生まれた時からカラーテレビ、ピアノ教室、何を歌っているかさっぱり分からないCD等々のマシーンに囲まれて育った娘と、調子を合わせたのが軽率の極みだった。
 お金さえあれば、あれもこれもと買い求めるそれ行けどんどんの時代に、所帯を持った団塊の世代と、買う時には消費税を払い、捨てる時にもリサイクル費用を必要とする、今時の若奥様との間で、紛争が勃発しない訳はない。
「婆ちゃんの誇りだらけの脳内大掃除と、積もり積もった使用不能な物、大きくかさばる物は、私、この際徹底的に覚悟を決めやり抜くつもり」
 娘なれど、前言を翻すなど僅かなプライドと、女々しい欲たれ性根は、場外ホームランをか
っ飛ばす勢いで捨て去ることと決意した。
 娘のすることなすことを、はたで盗みまなこで観察していたら、気分が下降線を一目散で転がり落ちる。
 本気声で、「前に痛めた腰の塩梅が気になりだした。ブレークタイムを取るわ」と私。娘は、母が嫁入りに持ってきた長持ちを「この棺桶みたいなものは何なの?」と言う。つられて私は言う。
「いらない、いらない。その中に鍋釜食器を詰め込んだら」
 情緒、思い入れ、物の価値の違いに目眩を起こしそうだ。早々と散乱しっぱなしの洋間で寝たふりをすることにした。目の役目に休息を与えるのが、一番賢い方法だ。どうせ次の世を取り仕切るのは娘夫婦だ。果報は寝て待て……か。
「かっ飛ばせーー、かっ飛ばせーーさやか」と、粋な呪文を呟きつつ本当の眠りに入った。
 こうして土、日の時間は、娘と力仕事に借り出された婿殿の大活躍で、あらかた終了した。秋晴れの穏やか陽だまりの中で、サッパリと小ぎれいになった家に一層の愛着を持った。

◇作品を読んで

 高速道路や一般道路の補修工事、作品の題材になっいる水道工事などは、年中どこかで行われている。そのたびごとに片側通行の交通規制で、実際はちょっとした時間ではあるが、待つことにいらいらするのは誰しも経験済みである。
 作者の家では、水道工事の後にリフォームが始まった。暮らしながらのそれは、家具や荷物の移動が大変だった。片付けをしながらの思い通りにならない気持ちが、エピソードを取り込みながらうまく書かれている。