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   春夏秋冬日誌 ガラスのこころ 
                       
    森 マコ                   
                                                                                   平成20年5月22日付け 島根日日新聞掲載

 私の特徴はなにか? いろいろ考えてみたが思い浮かばない。家族に聞いてみた。
「あわてんぼうで、早とちりで、おっちょこちょいで、人生損するタイプ」
 ひどいなあ。
 
 先日、学校で弁当を食べているとき、一センチぐらいの巨大なハエが飛んできた。側にあった紙コップを使って生け捕りにした。まさか、空中を飛んでいるハエを紙コップで捕らえられるとは思いもしなかった。
 隣でご飯を頬ばっていた同僚は、
「なんでバチンと叩いて殺さないの」
 と驚いていた。
 ハエの入った紙コップを嬉しそうに覗いている私に向かって、
「こぼれたコーヒーは、拭いておいてくださいよ」
 などと言う。
 ハエは捕まえた。だが、大きすぎて殺すことは出来なかった。つぶすのは気持ち悪いし、結局、外に逃がした。
 こんな自分の行為が好きだ。
 人の顔を眺めて、鑑賞するのも好きだ。人の顔を見ているといろいろ連想が広がり、楽しいのだが……。
 あまり長く見ていたり、見詰めたりすると誤解されるので、最近は、じっと見ることを止めた。知ったかぶりも止めた。
 家族は口をそろえて言う。
「黙って居れば賢そうに見える」
 私の血液型はBである。書店でB型について書かれた本を買った。自分の特徴を知りたかったからだ。
 まだある――。
 通っている学校で、JIS検定の試験勉強をしている。
 車の運転免許試験に似ている練習問題は四択だ。つまり、四つある解答から一つを選ぶようになっている。
 私は、極めてまじめにやっている。でも、答え合わせの時にはつまらなくなってしまい、教科書を読んでいる。なぜなら、教科書を読み直した方が、理解しやすいからなのだ。
 そんなとき、突然、先生が私に答えるように振ってくる。
 周りの男性(私以外は、ほとんどが男性で、それも若い……)に慌てて聞く。
 時間を稼ぐため、とりあえず、「ファイナルアンサー」と言っておくと、先生もファイナルアンサーと言い返す。
「フィフティフィフティでお願いします」
 爆笑が、周りに広がる。
 授業が終わった後で、数人が私の周囲に集まって来て、話しかける。
「森マコさん――。あれ真剣に言っているの?」
 どんなときでも真剣だし、ふざけてはないよと、真面目に答える。

 家族は私のことを、あわてんぼう、早とちり、おっちょこちょい――などと言うが、私の心はガラスで出来ているのだぞ。
 でもこんな自分が好きだ。多分……だけれど。

◇作品を読んで

「あなたの作品は、題材や雰囲気が変わっているねえ」と言われても、作品の中の言葉を借りれば「あなたの人生、損をする」と説かれても、自分の心の中に流れる時間を、ひたすら頑なに書くということは、なかなか出来るものではない。だが、作者は、その信念を曲げずに書いている。
 小説というものは、意外性が必要である。当たり前のことを誰が考えてもそうだというように書いてしまっては、
白くも何ともない。
 エッセイを書く場合にも、常識的にはこうだと思われていることを別の視点から眺めてみたらどうだろうと、作者は常に考えているのだろう。