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   「しゃあまけっ!」の推敲
                       
    中原 保幸                   
                                                                                   平成20年2月14日付け 島根日日新聞掲載

修正案 しゃあまけっ!

人 物
弓削晋太郎(34) 警察官
弓削明乃(29) 弓削の妻
弓削智春(6) 弓削の子供

○交番・中
 入り口の傍に石油ストーブ。
 ガラス戸の外、牡丹雪が降る。
 弓削晋太郎(34)が机に向かって、破れたストッキングで何か作っている。
 入り口の扉が開く。
 コートの肩にうっすら積もった雪を払い、弓削明乃(29)が弓削智春(6)の手を引いて中に入ってくる。
 智春、元気な声で、
智春「父ちゃん、ただいま!」
弓削「おう、お帰り」
智春「(ニヤリと笑う)仕事サボるなよ!」
弓削「(苦笑いし)おいっ!」
明乃「コラッ、智春っ!」
智春「(舌を出し)あっかんべーっ!」
智春、あっという間に出て行く。
弓削と明乃、肩をすくめ、顔を見合わせて笑い合う。
弓削「しゃあまけこきやがって」
明乃「開莚式(かいえんしき)で友達の顔見た途端にはしゃいじゃって。すっかり生意気だわ」
弓削「開莚式か。莚の上に正座して延々と歓迎の話聞くあれだろ? 俺も昔やったよ。四月には入学式だもんな」
明乃「早いわね、いつの間にか大きくなって」
弓削「(頷く)ああ。――よし、できた」
明乃「ごめんね。勤務時間中なのに台所の生ゴミ入れ作ってもらっちゃって」
 弓削、頭を振って明乃に笑いかける。

前回の原案 
○交番・中
 入り口の傍らで石油ストーブが焚いてある。
 ガラス戸の向こうで、牡丹雪が降っている。
 弓削晋太郎(34)が机に向かって、破れたストッキングを使って、なにやら縫い物をしている。
 入り口の扉が開く。
 コートの肩にうっすらと積もった雪を払い、弓削明乃(29)が弓削智春(6)の手を引いて中に入ってくる。
智春「父ちゃん、ただいま!」
弓削「おう、お帰り」
智春「じゃ、行って来まーす!(出てゆく)」
弓削「(苦笑いし)おいっ!」
 智春の姿、あっという間に見えなくなる。
 弓削と明乃、肩をすくめ、顔を見合わせて笑い合う。
弓削「元気そうじゃないか」
明乃「開筵式で友達の顔見た途端に、はしゃいじゃって、まいったわよ」
弓削「俺もやったな。筵の上に正座して延々と話を聞いて、それから四月の入学式だった」
明乃「早いわね、いつの間にか大きくなって」
弓削「(頷く)ああ。――よし、できた」
明乃「ごめんね。勤務時間中なのに台所の生ゴミ入れ作ってもらっちゃって」
 弓削、頭を振って明乃に笑いかける。 

◇作品を読んで

 文学教室では、作品を参加者で検討するのだが、読者にはその過程が分からない。掲載した修正案のうちゴシック部分が推敲結果である。
 息子の生意気な言動を出そうとした作品だが、前回案では、作品のねらいにも関わる、タイトルに使われた倉吉方言の「しゃあまけ」が分からない。
 それも含めて文学教室参加者で検討した前回案は、父親が勤務時間中に妻から頼まれた仕事をしていることについて息子がとった生意気な言動=Aまた開筵式≠煢スの意味か分からないという指摘があった。作者はそれを踏まえ、修正案を文学教室に提出された。
 作品は、「交番」「入学」「ストッキング」という三つの語句を折り込み、六百字で書くという課題によるものである。シナリオであり、会話で構成するわけだが、なかなかに難しいものである。
 できれば二月七日付けの青藍≠お読みいただきたい。