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  マイスイート・マイハニー
                        曽田 依世                   
                                                                                     平成18年12月7付け 島根日日新聞掲載

 私は外国人かぶれ。
 ナイスガイには目が無い。
 テレビ放送のスポーツ観戦に、ナイス外国人が登場したとする。インターネットで、そのプレヤーの履歴を徹底的に調べ上げる。家族はそんな私を笑う。
 ワールドサッカーのブラジルチームのロナウジーニョ、ベッカム、オリバー・カーンなどのスタープレーヤーを、みな自分の恋人だと錯覚してしまうのだ。
 娘が嗤う。スーパースターは、みんな母さんの恋人かい? と呆れ顔をする。
 四ヶ月前のことだった。とてつもなく、キュートな外国人と知り合いになった。その外国人をマイスイート・マイハニーと呼んでいる。
 彼は、娘と同世代の青年だ。南アフリカから出雲にやって来た。全く日本語ができない。イタリア系のナイスガイで、フットボールをしている。
 初対面から、イタリア系青年のナイスガイとはウマがあった。
 イタリア系青年は、オバサンに心を揺さぶられた様子だった。私はマフィア(黒社会)のオバサン系らしい。とてもなついてくれた。なぜなら、毎朝顔をあわせるとイタリア式の挨拶をしてくれるからだ。イタリア系青年は、私と抱擁を交わす。私はまじめな出雲人なので、あるいは錯覚かもしれないけれども……。
 出雲に居るなら、出雲式の挨拶をするべきなのだ。彼はそうはしない。私は、イタリア系青年に出雲弁で話す。後は、ボディランゲージと筆談だ。彼が私へ送るメッセージの八割ぐらいを理解することができる。
 私は、イタリア系青年とビジネス、つまり勤め先に関係する話は、全くしない。ビジネスの相談は、私以外の同僚にすべて任せてある。
 ある日のことだった。
 男の同僚が私に文句を言ってきた。
(ぼくも、可愛がってくれよー)
 そういう恨みがましい内容であった。
 何で? 私はボーイたちに同じように接しているはずだぜ。マイスイートは特別よ。だって、イタリア系青年は、私のジョークを理解しているからね。そのうえ、マイスイートのウイットに富んだ返事は、出雲人には出来ないからよ、と心の中で呟いた。
 以前、私はイタリア系青年に尋ねたことがある。出雲大社にお参りしたかと……。
 するとマイスイートは、母国語で答えた。お参りした。フレンドと三人で行った。静かで荘厳で、美しい場所だと答えた。どんな方法で、出かけたのか? 出雲大社は、ここからは五マイルほど離れた距離だぞと追い討ちをかけた。出雲大社まで飛行機で行ったと笑った。おもっそい。座布団一枚あげるからね。テレビ番組笑点≠フようだ。
「車の免許を持っているから、今度レンタカーを借りてドライブをしたい。一緒に行くか?」
 マイスイートは聞いてきた。私は、大社町へのドライブはしないと断った。
 数日後、デートに誘われた。マイスイートに答えた。
「私はヒトヅマよ。それでもいいかしら?」
 マイスイートは、笑いながら「イエスイエス、イエス」と言った。
 こうして私は、イタリア系青年のマンマ(母親)と化していったのでる。

◇作品を読んで

 機知とか才知を意味するエスプリという言葉があるが、人の意表を突く鋭い知恵のことである。何でもない事件も書きようによって、実に面
白い話になる。うまいなあ、と思わせるエスプリのなせる技である。
 作者のおおかたの作品には、それがある。なぜこう書いたか、そして何が言いたいのかは、素通りするように読めば読み手に伝わらない。
「何でも茶化してしまうから、いけないのです」と作者は言うが、それは緻密な神経系の奥底で、自分をしっかりと客観的に見詰め、突き放して見ているということでもある。読み手側に立つと、書き手の思いが伝わるか伝わらないかは作品に選ばれているということになりそうである。