童 話 神さまに選ばれた星
大田 静間
島根日日新聞 平成16年9月30日付け掲載
ある日曜日の昼下がりのことでした。おじいさんは、畑仕事を終えて縁側でくつろいでいました。 「じいちゃん、地球もお星さまなの?」 小学校一年生になる孫の彩ちゃんが、おじいさんに聞きました。 いきなり、とっぴな質問に出くわし、おじいさんは面食らいました。 「そうだよ。地球もお星さんの仲間だよ」 夕べ、三年生になる兄の亮君と父親が、宇宙の話をしているのを彩が聞いていたのをおじいさんは思い出しました。 「たくさんのお星さんがいるのに、どうして地球にだけ生き物がいるの?」 なんだ、それが知りたかったのかと、おじいさんは納得がいきました。しかし、どのように説明してよいのか、とまどいました。 「うーん、神さまがそのように造ったのかな」 「……」 「彩ちゃんは、十五夜のお月さんや夕焼けの空をきれいだと思うかな?」 彩ちゃんは遠くを見つめる仕草をしました。そして、去年、出雲空港から東京行きの飛行機に乗り、窓から眺めた大きな夕陽と金色に輝いていた雲のことを夢中で話しました。 「そうか。そんなにきれいだったんだ。ところで彩ちゃんは、お絵かきが得意だったよね」 「うん、好きだよ」 「じょうずに描けた時、だれかに見せて自慢したくならないかい?」 「夏休みに描いた花火大会の絵を先生に見せて、ほめられたよ」 「うん、それで……」 どんな返事が返るのか、おじいさはしばらく待ちました。 「それでって……。うれしかったよ」 「そうか嬉しかったか。星を造った神さまだって同じだと思うよ」 「そうなんだ」 「せっかくきれいに造った空やお月さんをだれかに見てもらいたいと思うよ」 「ふーん。人間と同じだね」 「たくさんの星の中で、一つだけほめてくれる者がいる星を造ったんだよ。選ばれたのが地球なのさ」 一週間が経ちました。おじいさんは、星の話をすっかり忘れていました。 学校から帰って来た彩ちゃんが、またたずねました。 「テレビで言ってたよ。人間が地球を壊しているって」 「いけないね」 「神さま、怒っているかな」 「そうかもしれないな。人間が沢山の木を伐ったり、山を削ったりしたから、大雨を降らせて、どうするか試しているかもしれないよ」 「……」 彩ちゃんは、心配になりました。 「だけど、人間は悪いことをするかもしれないけど、地震で壊れたところを直したり、汚した空や海を一生懸命にきれいにする修理屋さんもするよ。だから、神さまは人間を一番えらく造ったんだと思うよ」 「そうか。人間はえらいんだ」 おじいちゃんは、彩ちゃんにそう話したものの、毎日報道される戦争の情景が頭をよぎり、何とも暗い気持ちになりました。 |
◇作品を読んで
島根日日新聞文学教室の題材で、ショートショートを扱った。ショートショートとはshort short story の略で、短編小説よりもっと短く、意外なアイディアに満ちた小説である。短編小説のひとつの形式でもあり、超短編小説ともいう。原稿用紙では、通常、十枚以下の枚数で物語を構築するジャンルで、凝縮された面白さが魅力である。 その話から、短い童話をと考えて書かれたものがこの作品である。作者が地球環境に寄せる思いが、彩ちゃんへの語りかけに託されている。 子ども達の本離れが進んでいると、よく言われる。理由は、本以外の情報が多すぎるということなのだが、それを認めるということは、子ども達に本を紹介する努力を捨てるでもある。いろいろな方法で、この作品のような短いお話に興味と関心を持たせることも一つの試みかもしれない。 |