報告者:島根大学法文学部法経学科3回生 阿武 紗矢 |
2008年10月5日 |
松江市から県への子育て支援事業に関する推進施策要望に関して、松江市の公立幼稚園の現状、指定管理者制度に依らない保育所・幼稚園のあり方(認定こども園、幼保園)を調査。以下に示す。 |
1.松江市からの要望
より充実した子育て支援と、より効率的な財政運営を図るために幼稚園に指定管理者制度が導入できるよう学校教育法の改正を国に対して要請 |
2.松江市の公立幼稚園の現状
現在、松江市には27の幼稚園があるが、定員に対して半数ほどしか入園者がおらず、園児が少ないところでは10人ほどしかいない園もある。共働き世帯が増えていること、また島根県では全国的に見ても長らく保育所入所者の数が多いことから幼稚園の入園者は少ない。幼稚園では園児を預かる時間が少なく共働き世帯のニーズに応えることが難しいが、その打開策として、預かり保育(27園中10園実施)や3歳児から園児を預かるなどして、保育所に近いサービスを提供している幼稚園もある。しかしながら職員の数が少ないこと、島根県では保育所に入所する児童が多いことが長らくの習慣になっていることなどから、幼稚園への入園希望者は少ないままである。
以上のことから、園児が少なくなる中で公立幼稚園の効率的運営のために指定管理者制度を導入できるようにとの要望である。
しかしながら、幼稚園運営の方法として「認定こども園」という既存の方法も考えられる。次はこの「認定こども園」について見てみる。 |
3.認定こども園
(1)概要
指定管理者制度とは違った幼稚園運営のあり方として、平成18年10月に「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」が施行され、「認定こども園」がスタートした。認定こども園は、幼稚園と保育所両方の役割を果たす新たな仕組みを創ろうという観点から生まれたもので、教育・保育を一体的に実施するためのものである。あり方としては、以下の四つのあり方がある。
- 認可幼稚園と認可保育所とが連携して一体的な運営を行う「幼保連携型」
- 認可幼稚園が保育にかける子ども¹のための保育時間を確保するなど、保育所的な機能を備える「幼稚園型」
- 認可保育所が保育に欠ける子ども以外の子どもも受け入れるなど、幼稚園的な機能を備える「保育所型」
- 幼稚園・保育所いずれの認可もない地域の教育・保育施設が認定こども園となる「地方裁量型」
この制度のメリットとして、従来は幼稚園の運営費及び施設整備費の助成については原則学校法人に、保育所の施設整備費の助成については原則社会福祉法人等に限られていたものが、①型であれば、設置者が学校法人、社会福祉法人のいずれであっても、運営費及び施設整備費の助成を受けることができる。
また、従来は入園・入所希望者は行政に希望申請を提出していたが、認定こども園では利用希望者は認定こども園に直接申し込み、利用希望者と認定こども園の間に契約関係が生まれる。両者の間に行政が加わらないことから、利用希望者は自由に幼稚園・保育所を選ぶことができ、入園・入所者獲得のために幼稚園・保育所の間で競争原理が働く。
- ¹「保育にかける子」; 両親が共稼ぎであったり、同居の親族を常時介護していることなど、同居の親族その他の者が当該児童を保育することができないと認められる家庭の子
(2)認定件数
平成20年4月1日現在、全国で認定こども園の認定数は229件で、島根県は0件である(平成21年度に浜田に1園開園される可能性あり)。当初は約2000件の認定が予想されていたため、わずか10分の1の数である。
認定されれば前述したように運営費及び施設整備費の助成といったハード面の補助を受けることができ、「認定こども園」という名前による宣伝効果を期待する声もあるようだ。それでも認定数が少ない要因としては、事務手続きが煩雑なこと、既存の幼保園との違いがさほど無いことが考えられる。
では、幼保園ではどのような運営が行われているのか。 |
4.幼保園
幼稚園と保育所の機能を相互に補完する施設として幼保園がある。例えば、松江市にある「幼保園のぎ」では、0~2歳児が8:00~18:00までの長時間保育で、3~5歳児は9:00~14:00までの短時間保育と8:00~18:00までの長時間保育を行っている。つまり、9:00~14:00までは長時間保育と短時間保育の子が共に教育・保育を受けられるようになっており、14:00以降は長時間保育の児童を預かる仕組みになっている。この幼保園は、幼稚園と保育所が一緒に運営されてはいるが、二つが一緒になって認定されているわけではない。例えば昭和62年に共用化が始まった東出雲町にある幼保園は、意東幼稚園と意東保育園として名目上は別々の幼稚園と保育園として存在しており、施設の共用が行われているが認定は別である。この点で認定こども園と異なると言えるだろう。 |
5.松江市の幼稚園入園児減少への解決策
松江市の幼稚園入園児の減少に対しては、これまで述べてきた認定こども園、幼保園の整備、またその他にも幼稚園の統合が考えられる。
しかしながら、現状では園児減少に対してすぐに対応できる抜本的な対策は無い。
具体的には、幼保園があるとしても数に限りがあり、また新たに幼保園を運営するには幼稚園教諭と保育士を確保すること、施設に関して幼稚園と保育園両方の基準を満たす必要があること、財政的な問題などがあり、すぐに幼保園を開園できるわけではない。また、幼稚園の統合という選択肢もあるが、統合した結果、地域から幼稚園も保育園も無くなるという地域も生まれる可能性がある。
この状況の中で出されたのが、指定管理者制度の要望であるが、松江市職員の方の話では強く要望をしているわけではないとのことで、いくつかある解決策の一つとして考えておられるようである。
以上に述べたような幼保園整備のための環境が整えば幼保園の数は増えるであろうし、そうすれば園児の減少も止まるだろう、また、保育所への入所を希望する待機児童の解消にもつながるというのが松江市の考えである。
つまり、これまで分かれて運営されてきた幼稚園と保育所が一元化されて運営される基盤が整えば、園児減少の解決に踏み出せるのではないか。
その点では、認定こども園という運営も選択肢の一つとして考えられる。見た目は幼保園と同じかもしれないが、助成が受けられることは魅力ではないだろうか。
子供が生まれて小学校に入学するまではわずか6年であり、その短い年数の中で対応するためには、指定管理者制度を含め、様々ある選択肢の中で早急に対応できる策は何か、また、それを実現するための財政支援なども早急に望まれる。 |