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福生訪問
少しだけ「本当にそうか?」という気持ちを引きずっているのですが、図書館に対する概念が全くと言っていいほど変わってしまいました。 実は、先日、福生市を訪れ、赤木かん子さんと会い、十分ではありませんが意見交換してきました。というか、彼女の図書館論、図書室論を興味津々で聞いたと言うのが正確かもしれません。また、彼女が激賞する福生市立中央図書館と、彼女が魅力的な図書室づくりに取り組む福生市立第2小学校のその図書室を見てきました。
まず、彼女の持つ図書館論とそれを基に取り組む運動の原点となっている福生市立中央図書館です。
市民の目線で図書館づくり〜福生市立中央図書館
福生市は人口6万人あまり、東京のベッドタウン、市域の殆どが住宅地で、東西4キロメートルほどの小さな市です。ここに不釣合いなほどの大きさの中央図書館と分館が3館、専任の司書12人を入れて24人の職員で運営されていました。図書館を中心とした生涯学習環境の整備にどれだけ力を入れているかわかろうと言うものです。図書館に足を踏み入れるとちょっと見た目には普通の図書館とあまり変わりませんが、少し違います。この少しが、実はぜんぜん違うというエピローグだと後で思い知らされました。だって、そんな目で図書館を見たことはないし、他の町の図書館を見たこともありませんでしたから。 最初にリファレンスルームを見ました。図書館のそのものの広さは松江市立図書館よりちょっと広いくらいですが、郷土関係資料を除いても松江の4倍くらいはありそうな内容です。初めて見る図書調べのガイド本のようなものまで実に充実していました。リファレンスルームだけでもこの図書館の目指すコンセプトの一端を覗いた感じです。 また、例えば、旅行ガイドブックのコーナーやヤングアダルト(中高生向け)コーナーが独立して設置されていました。それから、ヤングアダルトコーナーや子供向けスペースにはどんな内容の図書があるのか一目でわかるようイラストの入ったサインが掲げられていたり、分類法の番号順だけにとらわれないジャンル別も考慮に入れた図書配置もされていました。それから、CD売り場や書店で見られる面出しがされています。本の背表紙を揃える“つらあわせ”という作業もこまめに行われている印象です。
図書館はサービス産業
かん子さん曰く、図書館はサービス産業、利用者の立場に立った図書館作りをすべきだと。それは、司書の質で決まる。行政職員では住民のための図書館作りは不可能とも。 もうひとつ驚いた、感心したのは学校図書館へのバックアップ体制です。学校の一クラスに1回300冊まで、1ヶ月間貸し出す体制が整っているとのこと。こうした学校バックアップのための書庫も含め、書庫スペースは相当のものでした。島根県立図書館や松江市立図書館でも取り組まれていますが、島根県立図書館では1回100冊、3ヶ月まで、市立図書館は1回30冊、3週間までですが、新たに学校単位に30〜50冊1ヶ月まで貸し出す制度もできるようですが、こちらと比べて、その支援体制の充実ぶりがわかろうと言うものです。 館長が学校、学校図書館にとって公立図書館のバックアップと連携は絶対必要なことだと強調していたのが耳に残っています。 また、西多摩地区8市町村それぞれに図書館が設置されたのを機に市民以外への貸し出しに門戸を開いたところ、勤め先からの帰りなど、わざわざ電車を降りて他市町の多くの皆さんがこの図書館にやってくるとか。いい図書館、利用しやすい図書館は人をひきつけるのですね。
知恵と工夫と人手がたっぷり〜福生市立第2小学校
福生市立第2小学校ですが、お邪魔した日はちょうど学芸会の日で、対応してくださった校長、教頭には済まないことをしましたし、目を輝かした子供たちの集う図書室の雰囲気はわかりませんでしたが、子供たちが来たくなる図書室のノウハウをたくさん見、教えられました。 ここでは、3年前からかん子さんやPTAボランティアの皆さんが図書室の改造に取り組み、来る子供たちが3倍になり、雨の日などはちょっと広めの教室のスペースしかない図書室に生徒の1/3に当たる200人くらいがひしめきあうとか。 子供たちの好きな本、必要性の高い本を中心にした図書選択、子供たちのわかりやすさを最優先に、分類番号にとらわれない(十進分類法を基本としながらという意味)ジャンル別イラストシールによる分類と配置(これは子供たちに自身による本棚への返却も可能にしている)、イラスト入りサインボードの多用、週1回PTAを中心としたボランティアによる本の整理や赤木かん子さんの週1回のリファレンスなどなど、明るく居心地のいい空間づくりとともに、知恵と工夫と人手(お金もかかっている)をしっかりかけた福生市立第2小学校の図書館づくり。この成果はいつごろ、どのような形で結実するのか、とても楽しみで興味があります。
図書館とは
東京への機中、10月中旬に読売新聞に連載された「読書していますか」を改めて読み返しました。 私は、図書館と言うのは良書を幅広く蔵書すべきだと思ってきました。新聞には全国では
“ベストセラー重視主義”の公立図書館が少なくなく、出版社や作家から「図書館は『無料貸本店』状態で本来必要な図書購入がおろそかになっている」との批判を紹介し、成熟を目指さない図書館が豊かな活字文化を支える柱でありうるのかとの疑問を提示していました。また、文学全集の不振を嘆いていました。こうした視点にそうだ、そうだと相槌を打ちながら福生に行ったのです。
しかし、かん子さんは、図書館はサービス産業であるべきだと言い切りました。読みたい本がない、読みたい本がどこにあるのかもわからない図書館には子供たちも集まらない。日本の時代のトレンドは10年くらいで変わっているが、トレンドに合わない本は見向きもされなくなる。トレンドに合った本、読みたい本を揃える、そこが図書館づくりの難しいところでもあると。今の子供たちは、例えば「赤毛のアン」には見向きもしないと。これは子供だけではなく、大人も一緒と。 だから、良書は当然として図書館には来る人の読みたい本は当然揃えるべきだと。余り読まれないような、例えば個人全集等は必要であるが、書庫にあれば十分ではないか、更に図書館のキャパシティや位置付けに応じた品揃えをする必要がある。来館する人たちの読みたい本を選択し、揃えることのできる力量を持つ司書がいないと、いい図書館づくりはできないとも。また、いわゆる良書のガイドブックもあるが、大人の思い込みと子供のトレンド、嗜好は全く違うとも。 もう一つ、市町村などの公共図書館では貸し出しの5割は児童だとのこと。人口の1割しか占めていないのに。一般に鬼っこのように扱われるなど、日が当りにくいところのようです。 そういえば、決して悪口ではありませんが、公民館の図書室には家庭で要らなくなった本が集められ、貸し出されていますが、要らなくなった本を借りに来る子供は極めて少ないだろうと妙に納得し、貴重な空間を埋める本は、少なくとも子供の読みたい本を揃える努力がなければ無駄な空間になってしまうよなと思った次第です。 子供の読書運動の推進に取り組もうと地元小中学校の図書室見学から始めた調査活動、もう少し勉強しながら今後ともこだわりを持って取り組んで行こうと考えています。 あなたの図書館論も教えてください。
赤木かん子さん
最後に、赤木かん子さんですが、予想より相当若く、とても頭が良く、行動力を持ち合わせた魅力的な女性でした。ちなみに彼女は子供の本研究家といわれたり、児童文学者といわれたりしています。次はお酒を飲みながらの意見交換を約束して帰りました。 |
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