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島根の教育とシンガポールの教育事情

[2006.2/19]
 学校では学力や規範意識の低下が叫ばれ、企業では自主性や実践力のない新入社員の姿に漏れるため息など、今、わが国の教育は大きな問題を抱え、曲がり角に来ています。
 特に、わが県の教育は競争原理が働かないこともあり、厳しい現状があります。どう次代を担う人づくりを進めていくのか喫緊の課題です。
 委員会でも個人でも県内、県外の調査を進めていますが、少し違った視点で考えてみたいと、「唯一の資源は人」、徹底した人材教育で目を見張る経済発展を成し遂げたシンガポールの教育を調査に行ってきました。
 現場を見た思いの一端をなるべく絞ってご報告したいと思います。
【ため息】
 学力低下、間違いなく起きています。OECDの2003年のPISA調査では中位層が減り下位層が増えていますが、わが県でも同様の傾向のようです。
 県内外の小中学校を随分回り、授業風景を見、管理職等と意見交換を重ねてきましたが、特に問題なのは学習意欲の低下。最も深刻なのは、特に問題を抱える保護者の問題意識と対応能力が低いこと。
 学級崩壊や校内暴力は都会に比べればその深刻度は低いように思います。しかし、登校拒否やいじめ、特別な支援を必要とする子ども達は確実に増えています。
 会社の経営者からは、人と協調して仕事ができない、自主的に(マニュアルがないと)仕事ができない、怒ると辞めるなど、ため息交じりの悲鳴があちこちから聞こえてきます。

【コミュニケーション能力】

 PISA調査結果では<読解力+論理的表現力>が不足していると言われますが、授業を見て回って特に感ずることは、発言してもほとんどの子ども達はとても声が小さいと言うことです。シャイなのかも知れませんが、私には自信がないように思えます。
 先日、ふるさと教育フェスティバルに出席し感動したことがあります。八雲中学校では、同校を卒業した高校生も一緒になって地域づくりへの提言と実践に取り組んでいました。そして、「ふるさとまちづくりフォーラム」を開催し、自分達がコーディネーターやパネリストになって堂々と意見を述べていました。
 八雲中学校は八雲小学校の子ども達が入学しますが、小学校では劇団あしぶえの団員を講師に表現教育に取り組んでいます。主宰する園山土筆さんから子ども達が劇的に変わっていくとの話を聞き、授業も見せていただいていましたが、その実証を中学生達の発表を通して見たのです。
 また、委員会で行った浜田市の雲城小学校では、全国10の小学校での英語教育の研究指定校となって「英語表現科」を設置し、1,2年生は年間25時間、3〜6年生は年間70時間の英語表現教育に取り組んでいました。
 中学校の英語の教員免許を持つ校長の信念とこだわりで、単なる「英語科」ではなく「英語表現科」とし、割り当てのALT(英語指導助手)ではなく自分で民間の塾を回って日本人の夫を持つカナダ女性をリクルートしていました。
 30分間でしたが、4年生の授業を見せて頂きました。担任とALT、そして英語指導担当教員の3名がチームを組み、三匹の子豚の絵本を使いながらの授業でしたが、子ども達は素晴らしい発音の英語で元気爆発、飛び回り、本当に楽しみながらの授業風景でした。校長に聞くと、他の授業でも積極性や表現力という点で大きな変化が起きているとのこと。
 シンガポールの子ども達もおとなしい子どもが多い印象でした。小学校の校長に聞くとシンガポールでもそのことが課題で、幼稚園教育でコミュニケーション能力を高める取り組みが2年位前から始まったとのこと。その効果もあって新入生はとても元気、積極的になったとのこと。
 学校教育だけでは困難な部分もあると思いますが、経営者のため息への回答の一つがここにあるのではと考えています。

【Teach less Learn more】
 シンガポールの調査準備のため読んでいた本に、「国際校に入る日本人子弟で男子の多くがお情けで卒業させてもらっている。その原因は、日本での『手取り足取り指導』のため、目標を与えそれに向かって自らの力で学ぶ指導法についていけないことにある。」という件があり、その部分を執筆した先生と意見交換をしたいと思い、この本の編著者を通してお願いしたところ、現地の大学教授だった御主人ともどもゆっくりと貴重な意見交換の時間を持つことができました。また、勤務先の学校も訪問させていただきました。
 狭いもので、私の訪問を聞きつけた同校に勤める日本人の先生が、友人を介して是非会ってお話をしたいとのこと。友人を交えて高島屋の地下のフードコートで一杯150円ほどのコーヒーを飲みながらの意見交換でしたが、何れも貴重な意見交換となりました。
 "Teach less Learn more"、この二人の日本人の先生から共通して教えていただいたことですが、シンガポールの教育の指導方針はまさにこれだとのこと。一人の先生は、日本で教えていたこともあって中庸を行きたいと思うが『手取り足取り指導』に行きがちだと自戒を込めて話していました。
 わが国の学習指導要領にも「指導から支援へ」という方針があると聞きますが、授業を見る限り、また、管理職と意見交換する限り『手取り足取り指導』を良しとし、学習意欲が低下している中ではこの指導方法がベストと言い切る校長もありました。
 「生きる力」を育む。まさにこのことではないかと思いますが、未消化なのでしょうか。経営者への回答のもう一つが、このあたりにあると思えてなりません。

【規範意識とアイデンティティ】

 教育目標の一つに規範意識の高い子どもの育成を掲げる教育委員会があります。それは、裏返せば子ども達の規範意識が低くなっていると言うことです。恐らく、一昔ですと規範意識の涵養は家庭教育がその多くを担っていたように思います。子どもを叱らない親が多くなったと聞きますが、最も近いところで日常その光景に接し心を痛めています。
 シンガポールで訪問した中学校の一つで、話し合いを望む子ども達との意見交換の場がありました。1年生から4年生までのインド系、マレー系、中華系の12人でしたが、最も印象深かったのは、シンガポール国民だと言うことに誇りを持っていますかと尋ねたところ、間発を入れずに"Yes"という答えが返ってきました。当たり前だと言わんばかりです。日本だったらどうでしょうか。
 国際校でも同趣旨の質問を校長にしました。60カ国の子どもたちが通う学校ですが、自分の国へのこだわりが一番薄いのは日本人師弟とのこと。
 この学校では、規範意識の涵養という観点で最も気をつけていることは、相手のアイデンティティを尊重することだとのことでした。
 多種多様な民族の坩堝、その中で強く感じたことは、自分の国を誇りに思う心こそ、グローバル化の中で最も求められているということ。
 行った全ての現地校は毎朝必ず国旗を掲揚し、国家を斉唱するとのこと。島根県の公立義務教育学校だって1校ぐらいあっても不思議はないと思うのですが。

【鞭打ち】
 教師が子どもを打つ。恐らく親はすぐに教育委員会や学校に直訴し、大事になるのでしょう。
 シンガポールでも体罰は厳禁とのこと。しかし、問題を起こした子どもに対して、校長の権限で籐の鞭で6回まで打つことが許されているとのこと。
これは、教育省が@校長のみにその権限A入学時のオリエンテーションで説明B担任や他の教師はしないC事後であるが親に必ず説明する(親からの抗議は殆どないとのこと)D手のひらかお尻を打ち生徒を傷つけない(手加減が難しいとか)E6回まで等、細かいガイドラインを決めているとのことで、全校生徒の前で打つこともあるとか。本人に対しての効果は余りないが抑止効果があるということでした。
 ルールを作り、毅然とした態度、現場に任せ、現場をきちっと守る、そんな前提で時には体罰も必要と思いますがいかがでしょうか。

【徹底した選別と教師のステータス】
 シンガポールでは小学校4年生で事実上の進路が決まる、大変厳しい能力主義、選別主義で、韓国にも優とも劣らない教育熱です。当然光と影が生まれていますが、資源は人しかない国であり、ある意味では大変説得力があります。
 ここも学ばなければならないと思いました。ある意味で競争を勝ち残ってこそオンリーワンがあるのであって、児童生徒間の競争、教師間での競争、学校間での競争原理のない教育には社会を生き抜く人材など育成できるはずはないと思うのです。
 15年ほど前、シンガポールでも聖職者たる教師像が崩れそうになったとのこと。教師のステータスを守るために改革が行われたとのことですが、まず優遇される給料、任用への厳しい道(飛び切り優秀な人しか任用されない)、厳しい学校間競争と人事評価、潤沢な教育予算と現場の大きな裁量権など、狭い国土の特性もありますが、非常に効率的、効果的な制度となっていました。
 特別な支援を必要とする子ども達へのケアやクリエイティブな人材の育成など、緒についたばかりの部分や、過当な競争が生み出す厳しい現実はあるものの、確実に日本に追いつき、追い越そうとしている姿を教育の現場の中で感じました。
 程度問題も当然ありますが、競争原理の導入、絶対に必要だと思いますがどうお考えでしょうか。

【国際化】
 国際校の先生から英語教育の充実を直訴されました。全く同感です。
 私は、8年間英語教育を受けました。勉強嫌いと言うこともありましたが、英語は全く駄目です。(でも、外国人と付き合う機会が増え、否応なく意思を伝達しなければならなくなると不思議と通じるようになります。無茶苦茶な単語羅列と気持ちだけのボディランゲージですが。)
 シンガポールに住む私の友人の子息は、中学校2年生のときに日本人学校に転入したのですが、体育や美術、技術家庭科などが英語によるイマージョン教育で行われていたため、登校拒否になったとのこと。
 今時の子どもですから、当然日本ではALTによる英語教育もあったはずです。でも全く理解できずに立ち往生したのです。
 ALT確保の一翼を担うCLAIRの方からもALTの質についての問題意識を伺いました。勿論それだけではありませんが、事ほど左様に英語教育のまだまだ厳しい現実があるということだと思います。
 浜田の雲城小学校の取り組み、是非拡大して行きたいものと思っています。

【最後に】
 たった3日間の訪星でしたが、素晴らしい人たちとの出会いが実現し、大きなものを頂いた素晴らしい3日間でした。お世話になった皆さま、本当にありがとうございました。
短くと思いながら、ちょっと長くなりました。独善的で、全く言葉足らずと思いますが、思いの一端を報告させていただきました。是非あなたの教育論をお聞かせください。異論反論をお待ちしています。
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