中国電力のプルサーマル計画の取り組みが始まりました。プルサーマルの問題点を掲載します。
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国内実績なく、いきなり試験する乱暴さ
プルサーマルで使う燃料は、ウランとプルトニウム混合酸化物(MOX=モックス)燃料です。
島根原発1・2号機は、ウラン燃料用に設計されたもので、MOX燃料を燃やすために作られたものではありません。軽水炉でMOX燃料を燃やす場合、すべてのウラン燃料をMOX燃料に置き換えることは困難で、炉心全体の三分の一程度までと考えられています。
世界的には、ドイツ、フランス、ベルギー、スイスなどでプルサーマルが実施され、燃料集合体で4500体の実績があります。日本での試験は、原電の敦賀1号機(2体)と関西電力の美浜1号機(4体)の合計で6体しかありません。
そのふるまいは、ウラン燃料と顕著な差はないとされていますが、照射試験データが少なく、基礎的な研究も不足しており、早急に結論を出すことはできません。試験なら実験炉で行うべきで、実用炉でいきなり試験するとは乱暴きわまりない話です。
ウラン資源の有効利用だとか、国策だからとプルトニウムを使用するむきがありますが、最も大きな動機は、中国電力自らが述べているように、「余剰プルトニウムを持たないという国際公約の実行」です。プルトニウムは核兵器の材料にもなることから、「日本が核兵器を持とうとしているのではないか」と国際的な疑念をもたれるから、それをかわそうとのおもいではないでしょうか。
使用済燃料は再処理するという方針が諸問題の根源です。
軽水炉でウランを燃やし、そのまま捨てる(ワンス・スルー)方式もあります。アメリカでは、経済性と安全性からMOX燃料の使用はやめ、ワンス・スルー方式を採用しています。
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未完成な核燃料サイクル国民への『19兆円の請求書』
電力業界や政府は、プルサーマルの導入意義として「資源の有効利用」「環境保全」「核拡散防止」をあげています。
(10月2日付、山陰中央新報に全面企画広告掲載)
最大のねらいは、核拡散防止にあるのではないかということは前回述べましたが、資源の有効利用や環境保全は実際どうなのか、検証が必要です。資源の有効利用を考える場合、核燃料サイクルを考えることが必要です。
「核燃料サイクル」とは
原子力発電を維持するための核燃料の流れのことです。
つまり、原料のウラン鉱石を鉱山から掘り出す採鉱から始まり、図1にしめしたさまざまな過程を経て核燃料をつくります。これを原子炉の中に入れて核分裂反応を起こさせエネルギーを取り出すのですが、石炭や石油などの化石燃料とは異なり、核燃料は全部が燃えるわけではありません。
そこで、一定期間使った使用済み燃料を原子炉から取り出して再処理を行います。再処理とは、燃え残りのウランと新たに生まれたプルトニウムを核分裂生成物から化学的に分離し回収する工程のことです。再処理によって生まれた大量の高レベル廃棄物の後始末もやらなければなりません。
核燃料サイクルは、原子力発電にとって不可欠の過程ですが、その技術は現在でも完成されたものではありません。
むしろ、原子力発電のアキレス腱だといわれています。
図1 核燃料サイクルの過程
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資源の有効利用という面から考えると、核燃料サイクルの完成が原子力発電のメリットを生かす道ともいえるでしょう。しかし、現在はまだプルトニウムを安全に利用する方法が確立していないため、核燃料サイクルは、「サイクル」を形成していない状態にあります。
原子力発電所から放出されるクリプトン85などの放射性希ガスをあるレベル以下に制限しても、再処理工場で垂れ流しになっている状況ではどうしようもありません。原子力発電の安全性はトータル・システムとして検討すべきで、原子力発電所の安全性だけ考えるのではまったく不十分です。また、原子力発電のコストも、核燃料サイクル全体を考慮して評価されなければなりません。
政府は、昨年1月、原発の後処理(バックエンド)費用を約19兆円と試算し、国民に「広く薄く負担」を求める制度・措置を検討していたことがあります。この再処理を軸とする核燃料サイクルを国民に対する『19兆円の請求書』と批判する見方もあります。
後処理は、国民にとっても電気代にかかわることであり、経済性、安全性は切実な問題です。経済における国民主権、環境問題に能動的にかかわるカードともいってもよいのではないでしょうか。
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事故時の汚染は深刻
プルトニウムに関する汚染や事故は大小さまざまあります。大気圏内核爆発実験、人口衛星の落下による飛散、原子力発電所の事故、核兵器関連の軍事施設からの放出、臨界事故などさまざまです。本稿では原子力発電所の事故を振り返ります。
原子力発電所からのプルトニウムの放出で最大のものは、1986年4月26日、旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故です。
半径30Kmにおよぶ住民が避難させられた事故でした。環境中に放出された放射能は、経済協力機構・原子力機関(OECD・NEA)の報告では、事故直後に旧ソ連が行った推計より約3倍も多く、総計で約3億キュリーといいます。
被災後10年時の日本ユーラシア協会の調査団報告によれば、まず、事故時に乳幼児を襲った放射性ヨウ素による甲状腺ガンが著しく増加していることです。ベラルーシでは以前は4例しかなかった16歳までの甲状腺ガンが事故後459例確認されています。「一般の甲状腺ガンは転移しないのに比して、この甲状腺ガンは転移が早く悪質だ」と医師らは顔をくもらせ、「放射線照射が効くのが救い」といいます。広島・長崎では甲状腺ガンが発生していないことから、チェルノブイリ事故の影響を否定する日本の専門家がいますが、これらの甲状腺ガンは低線量の被曝でおきているところに特徴があります。
ミンスク郊外にある放射線医学研究所の施設に入院している子どもには、免疫や内分泌の異常などによる成長障害が目立つといいます。
被災住民には一般疾病が増加し、精神障害が社会問題となっています。高線量の被曝をした事後処理従事者の間では、広島・長崎と同じように白血病が増加しています。人体影響が本格的に現れるのはこれから、といいます。
ウランに比べて非常に大きな放射能、非常に長い半減期、体内に取り込まれ内部被曝を続ける。このようなプルトニウムは「非常に毒性の強い危険な物質」との見方は多くの人々の意見の一致するところです。
原発は五重の防護がしてあるので炉心のプルトニウムが漏れでることはない、と中国電力はいいますが、防災訓練でヨウ素剤の配備をすることは放射性物質の漏洩を想定したものであり、矛盾しているのではないでしょうか。
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耐震設計をめぐっても疑念は深まるばかり
9月12日、中国電力による島根原発2号機へのプルサーマル計画事前了解の申し入れ以後、原発やプルサーマルの耐震安全性についての議論があちこちで行われています。 ひとつは、10月2日に行われた佐賀県玄海町の九州電力玄海原発3号機へのプルサーマル計画についてのシンポジウム。すでに国の計画許可が出て、地元同意のプロセスが残っている段階です。新聞報道では、推進、反対両派の激論が紹介されています。
環境問題、安全問題で地元の住民から次のような質問がでたそうです。=「テロ攻撃や地震を想定した審査か」。
これに対して、経済産業省側は、「攻撃されて大丈夫かという審査はしていない」と答え、地震についてもプルサーマル独自の審査は行っていないことを明らかにした、というものです。
ふたつめは、翌3日、松江地方裁判所で行われた「島根原発1・2号機運転差止訴訟の口頭弁論です。
この裁判では「活断層はない」として建設された1・2号機の耐震設計基準M6・5をめぐって、それを上回る地震の可能性があり、安全性が確保されないとする原告と「活断層の長さが8Kmでも10Kmでも安全。仮に20Kmでも安全」とする中国電力の主張が激しく争われています。
中国電力が「8Kmだから安全」としたのは、松田の式といわれる権威ある学説を用い、「活断層の長さが8Kmだと予想される地震の規模はM6・3。耐震設計基準の6・5以下だから安全だ」とする論拠でした。この式に20Kmを挿入するとM7になり、危険ということになります。
そこで予測手法を変更。応答スペクトルの手法を用い、20Kmでも大丈夫といいますが、データをみると一部で危ない領域を示しています。
裁判で争われているときに、プルサーマルを持ち出してくるのは、住民をないがしろにしているあらわれです。
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国際的には断念・撤退理解しにくい日本の推進理由
これまでプルサーマルの問題点を原発の技術的問題として考えてきました。技術的問題ではまだまだ検討しなければならないことがたくさんあるとおもいますが、それは専門家の検討に委ねたいと思います。経済性でも核燃料サイクルでも展望がないのに、なぜ、日本政府と電気事業者はプルトニウム利用にこだわるのかという問題を考えてみます。
プルトニウムがこれほど問題になる根本原因は、それが核兵器の最も重要な材料になるからです。プルトニウムを所有し支配することは、核兵器を所有し支配することと同じです。
核兵器はアメリカと旧ソ連との覇権争いの重要な道具となっていました。核軍拡競争はとめどもなく拡大し、両核兵器大国の経済を疲弊させ、ついには1991年には旧ソ連の崩壊をもたらせました。
今日、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の核兵器保有5カ国以外の国への核兵器の拡散を防止することを目的とした核不拡散条約(NPT)があります。「余剰プルトニウムは持たないという国際公約の実行」というのはNPTとの関係があるからです。
その他、中国電力はプルサーマルの必要性について、エネルギーの安定供給、資源の有効利用といいますが、説得をもちません。ウラン燃料のほとんどをアメリカに依存しています。ウランを燃やしそのまま捨てる方式だとウラン利用率は0・5%ですが、プルサーマルでは約1%に満たず、二倍にもなりません。しかも濃縮ウランは依然として必要です。アメリカ依存では安定供給の保障を続けることは不透明で、未成熟な再処理技術で経済的にもなりたちません。
国際政治的にも経済的技術的にも諸問題が山積しており、世界的にはプルサーマルを断念する国が増えていますが、なぜ、日本が推進するのか、その理由は理解できにくいところです。
プルサーマル問題は、発電技術の問題の枠を超えて、エネルギー政策をめぐる課題とも密接に関係していることです。プルサーマル受け入れを断念した福島県の例に学び、島根県でも「エネルギー政策検討会」をたちあげるべきではないでしょうか。
<参考文献>日本科学者会議原子力問題研究委員会編 プルトニウムQ&A、原発問題住民運動全国連絡センター発行「げんぱつ」、日本共産党中央委員会発行「議会と自治体」など。