青い炎(抜粋)
春の驟雨であった。
宍道湖の西の端から青鈍色の雲が突然現れ、見る間に松江大橋の上空へ疾風のよう
にやって来た。(降るな)と思った途端に、暗くなった空から落ちて来た大粒の雨滴が、風
で泡立ち始めた川面を叩いた。橋の北詰めにある公園の桜の花びらが吹き散り、たちまち
アスファルトに象牙色の斑点を描いていく。
能木圭祐は、松江大橋の南詰めにできた松江大橋南詰公園≠ェ、島根県景観賞のひ
とつになっていると聞いたものだから来てみたのだ。このあたりでは、源助公園やポケット
パークなどと言われている。ポケットなどという言葉からすると狭く感じるのだが、実際は百
坪ばかりである。
中央に桜の古木が数本と灯台形の木製モニュメントがある。御影石で造られた膝高の、
それも八軒屋≠ニいうこの町の名前から数字を取ったのであろう八本の柱が、境目はこ
こだとでも言うように歩道沿いに並べられている。
江戸時代の架橋時に人柱となったと伝えられる源助の碑、橋の架け替えがあった昭和十
二年に殉職した深田という技師の記念碑など、大橋や大橋川に関わりのあるものがバラン
スよく置かれていた。
四月から始まった文学教室の講座を受け持つことになった最初の月曜日だった。
「明るすぎるわ……」
海都世は、薄藍色のカーテンを引いた。光がくすんだブルーに変わった。
窓から引き戻され、そのままベッドに押し倒された。ブラウスのボタンに圭祐の指がかかる。
(自分で……する)と言ったつもりだったが、躰の奥であの感覚が再び動き、声にならなかった。
スカートを抜き取られながら、圭祐の手の動きに合わせて自然に躰を捩っていた。
両腕を上にあげさせられ、スリップを脱がされた。背中に回った圭祐の右手の指がブラジャー
のホックをはずす。ショーツが引き下げられていく感覚があった。
海都世は(いや……)、と言いながら圭祐に裸の背中を向け、きつく閉じた両脚を曲げていた。
嫌ではないのに、自然にそれが声になっていく。
海都世は抱かれている間、幾度となく繰り返していた。