モンゴルの森林から 第1報
タクサン<榧野尚(かやのたかし)>
2010/07/04
モンゴルの首都ウランバートルから北230kmにダルハンというモンゴル第2の町があります。さらに、北70から80kmのところにトッチン・ナースという名の地域があります。ナースは松の木、トッチンは密なという意味だそうです。つまり密林です、それが今は見渡す限りの草原で、よく見ると切り株だらけです。新しい切り株と虫が入り込んでぼろぼろになった切り株が混在しています。ぼろぼろになった切り株は虫が入ったらしい穴が無数に開いています。
ここは2002年ごろから気にかかっていて、定点的に森林の観察を続けてきた地域です。「モンゴルに森林が」と言うと驚く人がいるかもしれないがモンゴルの面積は日本の4.2倍、その10%が森林でした。2000年に入った頃から7%になったと言われています。1990年代始め頃、モンゴルも社会主義経済から自由開放経済に移行しました。モンゴル社会全体が大混乱をきたし、国家財政の建て直しのために材木を輸出しました。材木を運ぶ貨物列車が、何10両もつながって南へ南へと運んでいました。90年代後半になると土地所有制度の改革と増えてきた中間富裕層が都市近郊に木造の持ち家を建設しだしました。そのため、建築木材の需要が急速に伸びました。
2004年ごろ、モンゴル政府も森林の状態に気がつき、樹木の伐採を禁止しました。しかし依然として木材貨物列車の移送は続いていたので、貨物列車
の車掌に尋ねました。これはシベリアの材木であって、モンゴルは中継しているだけなのだと車掌は言っていました。しかし相変わらず非合法の伐採(密伐採)は続いており、輸出もされていると新聞は報道していました。建築材木はトレーラーで運びます、合法伐採の材木はトレーラー一杯が日本円で10万円、密伐採は5万円、密伐採を奨励しているようなものです。罰金も大変な額と聞いています。密伐採の材木を運ぶトレーラーは草原を走ることもあり、警察の車に追いかけられ川の中に落ちたトレーラーを見たこともあります。
慌てたモンゴル政府は植林の奨励を始めました、日本や韓国のボランティアも植林に入ってきました。私が定点観測をしているトッチン・ナースに柵が作られ、2004年9月「愛知万博記念植樹」と言う看板が立てられた。植樹を見ると、植樹のためだろうか大きな木が切り倒され、畝立てした溝に25センチ間隔に松の苗木が植えられていた。しかし、間伐材でも作るのかと一瞬心配もしましたが、そんなことは杞憂に過ぎませんでした。翌年10月にここへ来た時、ほとんど3分の2は枯れていたのです。昨年(2009年)8月にも、ここへ来ました。柵はなくなり、植えた木は全滅でした。
ほかの森林も見て回りました。まず、モンゴル国立孤児院のキッズキャンプ(夏の保養地)のあるハンドガイトという地域の森林を見ました。驚きました、8月と言うのに山の尾根一帯の松林が真っ赤なのです。このときは、帰国間際なので写真を写しただけで引き返しました。続けて9月下旬、この場所へ来ました。今度は葉が見事に落ちて、丸裸です。この時も、沢越えをする道がわからず、裸になっている木の近くまでは到達できませんでした。付近の住民から、8月中旬ヘリコプターが農薬を散布し、農薬の臭いが自分たち
の住んでいるところまで漂ってきたと語っていました。ここより少しウランバートルへ寄ったところでも農薬をまき、農薬で汚染された草を食べた牛の乳を大量に廃棄したとも話してくれました。これらは、モンゴルの当局が害虫の認識を持っていることを示しています。
私は林業・農業は全くの素人で、勉強をしながらモンゴルの森林を見させていただいています。松林が真っ赤になったのを見たとき、その原因は単純に日本のマツクイムシと考えていましたが、調べてみるとキクイムシ系の害虫の被害のようです。多分、カラマツヤツバキクイムシと思われます。いずれにせよ、8月中旬農薬散布というのは遅すぎで、虫が動き出す6月に散布しなければなりません。12月にも、ここハンドガイトへ来ました。気温−10℃、沢を越えられず、引き返しました。
10月上旬には、モンゴルで有名な観光地テレルジの付近の森林も見ました。ここは、カラマツの林が続いています。モンゴルでは、この時期カラマツ林は見事なゴールデンカラー、黄葉いたします。ところが、テレルジ付近のカラマツはすでに茶色、葉が落ちていました。幹を見ると虫の穴が見られました、これこそカラマツヤツバキクイムシの被害と思いました。
2009年モンゴルの森林の上記3ヶ所を見てきました。モンゴル森林のほんの一部ですが、どれもこれも悲惨な状態で見捨ててはおけないと思いました。
早急に、被害樹種の特定、害虫種類の特定、害虫の生活史の調査が急がれると思いました。
2010年6月〜7月、虫が動き出すときに、調査に行く計画を立てました。この調査に行く前に、4月22日〜5月10日、準備調査に行きました。 やはり上記3ヶ所の森林を見て回りました。
まず、トッチン・ナースの現在の惨状は本編の劈頭に掲げたとおりです。付け加えるとすれば、カラマツヤツバキクイムシの大きさは5ミリまで、ここで虫の開けた穴はかなり大きいので、別種のキクイムシかと疑念を持っています。モンゴル人がグロテスクな虫が来ていると言ったのが気にかかります。これからの調査にかかっています。
ハンドガイトの山には、4月24日に入りました。この日の最低気温が−9.6℃、雪山の尾根を越えました。雪の上に、自然倒木、伐採された木で大変でした。自然倒木は地盤を支えている地下氷の氷解によるものです。モンゴルの大部分の地下には地下氷がありました。木の主根は地下氷にさえぎられて伸びないようですが、広がった根がしっかり硬い氷の盤を掴んでいるようです。
その地下氷が温暖化のために解けたものですから、立っていることが出来ず倒れてしまうのです。その様子がこの写真ではよくわかります。
ここで、もう一つ気にかかることがありました。ここの森林の尾根付近の北側はカラマツで枯死していると思われるものが殆どでした。南側はマツが多く緑色をしていましたが、白っぽい緑色のものが垂れ下がっていました。日本に帰ってから専門家に、サルオガセと言う地衣類で菌類と藻類の共生植物と聞きました。藻類の気根から水分や栄養分をとるので寄生主植物には被害を及ぼさないとも聞きました。しかし、寄生しているマツと寄生していないマツでは勢いが違います。やはり、素人目でしょうか、ともかく6月の課題の一つです。
テレルジでは、大きなカラマツで幹に虫の穴が開いているものの枝を折るとポッキンと折れて、折れ口は茶色でした。比較的小さい木はしわくて、折れ口は緑色がかっており、生きている感じでした。6月にどんなに変化しているでしょうか、芽吹き具合はどんなでしょうか、これまた課題の一つです。
モンゴルでは、先に述べましたように、富裕層が都市近郊に自宅をどんどん建設
しています。最近はブロックやセメントを使い出しましたが、やはり木材の消費は大変なものです。製材工場はフル稼働のようです。さらに心配なことがあります、燃料です。
たとえば、ウランバートルでは火力発電所から出るスチームをマンホールの中のスチームパイプで全市に流し、集中暖房いたします。ところが、近郊の新興住宅地ではスチームパイプが来ていません。暖房や料理に石炭や薪を使い出しました。町の角々で、袋に詰めた薪や石炭を打っています。森林では虫のついた木を切り出しています、これら虫つきの木が売り出されているように思われます。6月にはこれら袋入りの薪を買って虫がいるかどうか調べるつもりです。
一番大切な問題は、モンゴル政府行政・大学・研究機関がどの程度昆虫被害を認識しているか、どうかだと思います。時期はずれの農薬散布しているのですから認識はあると思いますが、正面から取り組む姿勢が見えないのは残念です。
4年前、私がいつも行っていますホグノハンというツーリストゲルのあるところに数十人の日本人ボランティアが植林に来ました。ブルーベリーの苗を数百本日本から持ってきて植えました。モンゴルで出来る果物はブルーベリーだけです、それもわざわざ日本から苗木を持ってきて植えました。昨年、私はそこに行きました、ベリーの木は一本もありませんでした。
ウランバートルからカラコルム(チンギスハンが即位した都)への途中、鳴り物入りで植林の柵を作りました。とんでもなく広い草原に植林をしようとしていました、今行きますと見事に柵がありません。
今のモンゴル植林行政は海外からのボランティアへ任せているように見らます。一方、多くのボランティアグループは植林をしましたと胸に“勲章”をつけて帰ります。私はモンゴルで植林をいたしましたと胸を張って帰ってきますが、大切な植林後の手入れは殆ど見られません。
植林の問題についても、害虫被害と同様です。植林について、モンゴル植林行政が正面から取り組む姿勢が見えないのは残念です。
植林よりは、まずは、木を切らないことを考えるべきだと思います。ひどい時には植林するために木を切り出すことさえ見かけます。
さらに、本気で植林を考えるならば、モンゴルの植林の専門家を育てるべきだと思います。
私の都合により、予定しておりました大切な時期6月17日〜7月4日のモンゴル行きを中止しいたしました。6,7月に動き出す害虫を調べようと思っていた矢先でした、大変残念でした。
なお今年(2010年)は、7月28日〜8月11日、小3と小5の男の子を、8月21日〜9月2日、大学生をモンゴルへ連れて行く予定です。7月28日からの小学生とのモンゴル行き、多分憎い害虫の繁殖期は終わっていると思います。しかし、少しでも害虫の生態が調べられればと期待はしています。
一緒に行く小学生、お願い!
虫はもうとっくに動き出しているかもしれません。今年は十分な結果がえられないかもしれないね。でも、頑張ってモンゴルの森林の害虫を調べようね!
今年だめでも、来年もやりたいね!必ず、必ず、来年(2011年)もやろうね!
“モンゴルの森林から”の第2報は、三人の名前で書こうね!